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老松の笛 「あこや姫」

老松の笛 「あこや姫」

国立自然1 - コピー


昔、あるところに、琴の名人がいました。

名人には、一人娘がいて、その娘は 小さい頃から、琴の音といっしょに育ったので、名人が ほんの少し、手ほどきをしてやっただけで、日ごとに上手になっていき、年頃になる頃にはもう 十分に うまく弾けるようになりました。

娘の演奏を聞いた人は たちまち そのやさしく、歌うような、ときに 物語るような 琴の音に、すっかり 夢中になるほどでした。
しかし、娘は ただ 琴を弾くことが とても好きだっただけなので、名人のように 人に教えたり、人前で演奏したりすることには 関心がなく、名人の弟子たちが出入りする日中は ほとんど 琴を弾かず、夜、皆が 寝る頃に 音入を潜めて 弾くようになりました。

ある 月の綺麗な晩でした。
いつものように、娘が そっと 大好きな琴を弾いていると、どこからか 澄んだ月の光のような 美しい笛の音が聞こえてきました。

娘は、はて・・?と 思いながらも、その音色が 自分の琴の音に合わせられているのを知ると、だれだろうと いぶかるより先に、その 上手な笛の音との合わせに 心を尽くして 弾きました。

そして、曲が終わると、娘は 月の光に照らされた 庭の池のほとりに、一人の若者が笛を手にして 立っているのに気付きました。

若者は、ゆっくりと 娘の方に向くと 言いました。

「あなたを 驚かせてしまいました、大変 申し訳有りません。

ですが、毎晩 私のい
るところまで 聞こえてくる やさしく物語るような琴の音に、今日は もう どうしても 我慢できず、不躾を承知で、お尋ねしてしまいました。どうか お許し下さい。」

娘は 月明かりにたたずむ 若者の姿と その笛の音に、大変 心を動かされたのですが、何も言うことも出来ず、ただ 思いを語るように 弦を爪弾きました。

すると 若者も 再び 笛を構え、今度は 時どき お互いの様子を見ながら、それぞれの 胸のうちを 探るように 音をあわせるのでした。 

そんなことが しばらく続いた ある晩のこと、その日は 朝から 大雨となり、風も強く、里にも野山にも いろいろな物が 飛び散って 大変な騒ぎだったのですが、それは 夜になっても 一向 鎮まる気配なく、人々は みな 眠りにつくこともできないまま、震えながら 夜明けを待っていました。

そのとき、娘は 閉ざされた家の中にいながら、雨風の間に間に、かすかな笛の音を聞いたように思いました。

こんな日の夜更けに あの方は表で 笛を吹いておられるのだろうか、と 娘は気になり、いそいで 戸を開けようとしましたが、家の者たちに きつく止められ、確かめることができません。

そこで、娘は いそいで 琴を弾き始めました。

すると、今まで 途切れ途切れだった笛の音が、すぐ 耳元で 吹いているかのように、はっきりと 乱れなく 聞こえてきました。

笛の音と 琴の音は、大変な雨風にもかかわらず、嵐を なだめるかのように、美しい音色を交し合い続けました。
しかし、娘は そのうち 笛の音が 時どき 途切れるようなのに 気付きました。

それは 雨風にさえぎられて、というよりは、なんだか 息も絶え絶え というようで、娘は なにやら 胸騒ぎがして仕方がありませんでした。

でも、まだ 笛の音が聞こえているうちは 無事でいることだろう と思い、心騒がせながらも 一生懸命、琴をかき鳴らし続けました。

そして、そろそろ 夜も明けるか というころ、とてつもない大風が 強く吹いたかと思うと、笛の音は ぱたりと 途絶えてしまったのでした。

娘は はっとして 立ち上がり、その突風の過ぎた後、いきなり 静かになってしまった表の様子を見ようと、急いで 戸を開けて 庭を見てみました。 

しかし、庭には たくさんの庭木や花が めちゃくちゃになったり、池の水が 泥沼のようになって あふれていたりはしていても、どこにも 人影などを見ることはできません。

娘は 急いで身支度をすると、若者を捜して、ようやく 日の差してきた表を 歩き始めました。

あちこちの家は 壊れたり 傾いたり、田畑も水浸しで 山の木々も たくさんに折れたり 千切れたりしていました。

そうして 村はずれまできたとき、娘は あの若者が 地面に倒れているのを見つけ、急いで 駆け寄って 介抱しました。

しばらくして、若者は ようやく目を開けると、娘を認め、血の気のうせた顔に 少し笑顔を浮かべるのでした。

「まだ、お互いの名も 知りません。どうか 元気を取り戻して、また いっしょに・・」
そういう娘をさえぎって 若者は か細い声で言いました。

「あなたを 長いこと だまし続けていました。ゆるしてください。」
「はて。。それは どのようなことでしょう・・」

若者は 苦しげに顔をゆがめながら、それでも 一生懸命 娘の前に いずまいを正して坐りました。

「あなたのあの やさしく物語るような琴の音が、本当に好きでした。毎晩 あなたの
琴の音が聞こえてくると、私は じっとしていられなくなり、あの夜以来、笛を手にして あなたをお尋ねすることが 本当に 楽しみで、嬉しくて・・。とても 幸せでした。」

「私も。私も 同じです。あなたの笛の音は、本当に 清らかで軟らかい。そっと 頬を撫でるそよ風のようなのに、時どき しっかりと諭してくださるような、そんな音色で、私は とても 頼もしく、楽しゅう御座いました。」

若者は 嬉しそうに微笑むと、娘の前に手をついて 頭を下げました。

「なにをなさいます?! お手をお挙げ下さいまし。」
いやいや、と 若者は頭をふると、声を落として 言いました。

「私は、ながいこと そんな優しいあなたを だまし続けてきたのです。どうか ゆるして下さい。

昨夜の雨風は ここに たった一人でいる私には あまりに怖ろしいものでした。

ですが、あなたの琴の音が聞こえてきた時を思い出して、最期に、と おもい、お耳には届くまいと思いつつも、笛を奏でたのです。

娘は なんのことかと 息をつめて 若者を見つめ、話に聞き入っていました。

「すぐに あなたの琴の音が聞こえてきました。ああ、それが どれほど 私を強くしたことか! 
私は、あなたの琴の音に力を得て、あの雨風を 懸命に耐えようと決心しました。

でも、あまりに 私は 弱かった。そして とうとう 倒れてしまったのでした。」

若者を見つめていた娘は、若者の手を取って 言いました。

「それが 何事とおっしゃるのですか?こうして お顔を間近で拝見できて、私は たいそう 嬉しく存じます。どうか これからも あなた様の笛の音にあわせて、私に琴を弾かせてくださいまし。」

若者は 娘の言葉に 嬉しそうに微笑むと、娘の手を握り返したまま、すうっと 姿を消してしまいました。

娘が あわてて 若者を捜し求めると、どこからともなく 若者の声がしました。

「お許し下さい、私は 人ではありませぬ。この村を護って 長の年月、ここに居りました、老松で御座います。

かつて 名人の奏でる琴の音に 目覚めを得、のちに あなたの琴の音に 心奪われてからは、どうしても 自分を抑えることができずに、とうとう あのようにして、あなたの前に姿を現してしまいました。

もう それだけで、してはならないことをしてしまったというのに、毎晩、あなたの奏でに どうしても 応えずにはいられなかったのです。 」

娘は 若者の倒れていたところに 一本の松の大木が 根元から倒れているのに ようやく 気付き、その松の木肌に触れて いとおしそうに 撫でるのでした。

娘の涙が 松の木に落ちると、松の木も 涙のように 樹液をあふれさせました。

娘は いつまでも 松の木のそばで 泣いていましたが、後からやってきた村人たちが、川の水があふれて流された橋を、この松で造りなおそうとするのを知り、村人たちが 払った枝を持ち帰って、ふさわしい部分から 一本の笛形を作らせると、庭の池のほとりに 小さな祠をこしらえさせて、そこに 老松の笛を 納めました。

そうして 朝に晩に、娘は 祠に詣でた後は かならず 琴を弾いて、老松の精をなぐさめた と言うことです。

参考: http://aureaovis.com/story.htm

阿古屋姫 http://samidare.jp/funayama/note?p=log&lid=5221  

「音を伝える和邦人」 音生

しの笛総合サイト http://shinobue-wako.neosailand.com/
  
自然の音 そして和楽器 和太鼓 篠笛

記事が気にいたら押して下さい。 http://blog.with2.net/link.php?1596634



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プロフィール

和邦人 音生

Author:和邦人 音生
プロフィール:杉浦音生 世田谷区下北沢で生まれる
天然石専門店 NEOS Ailand 経営 東久邇宮文化褒章受賞:2013年11月3日  東久邇宮記念賞 受賞:2014年4月18日 現在、与沢塾,熟生  希望日本の会,会員
篠笛講師 和太鼓講師 作詞作曲家 和歌作詞 ネットビジネス研究 ホームページ制作 英会話講師 電子技術者 静電気放電技術者 無線従事者 鉱石愛好家  地域・祭り常任理事 

東京電機大学   電気通信工学科専攻 5人兄弟の3男
中学卒業後 大手通信会社に入社 働きながら大学2部で学ぶ
大学卒業後 中野英会話学校、NOVAにて米語を学ぶ

15歳より電子計測器の組立作業に従事、その後検査→保守サービス業務に従事
昭和50年 米国のEHリサーチ社の社長Drハブスと出会い就職 26歳
昭和53年 半導体の電子計測装置の会社を設立 高速パルス技術に従事、保守サービス→製品開発を行なう
半導体のACパラメータ測定器を始め、超伝導工学での電子計測分野の開発業務に従事
超伝導工学研究所、富士通研究所、NTT研究所等研究機関の電子計測の提案、開発を行なう
半導体デバイスの静電気試験装置(ESDテスター,名称付け)を商用器として世界で最初に開発
半導体専門の大手会社、三菱、東芝。SONY, 沖電気 NTT、NEC、富士通、シャープ、その他
国内の主なメーカにこれを販売

静電気関連試験装置の開発、特許、論文を多数発表 米国でESDアソシエイションのワーキンググループに所属、ESD国際標準のためのメンバーとして、貢献(提案、データ取り、論文提出)
米国をはじめドイツ、中国、韓国、台湾等アジア圏にて展示会やデーラー教育を行なう
静電気放電の検出装置(ESDイベントディテクタ)を世界に先駆け研究開始、日本信頼性センター(RCJ)にて論文3回発表、国際ディスク協会(IDEMA)にて研究論文を発表する

半導体の静電気破壊試験器関連や静電気放電の検出法などの特許を多数出願
その後関連装置のプラズマ異常放電監視装置の開発に協力 国内主要メーカに納品。
平成16年よりHP制作に興味を持ち、ブログ→ドロップシッピング→NET販売などを独自で学ぶ。

ボランティア、社会貢献活動
地域の祭りのコーディネート(19年)組織に頼らない祭りの立ち上げ、和太鼓指導「舞鼓会、朝日流惺太鼓」(18年)、しの笛講師「しの笛竹の音会」(指導18年)等の普及を行なう。
しの笛は尾原昭夫先生に師事 地元子供会の会長を10年務めた経験を活かし、子ども達に、ふるさと意識向上と楽しみや思いで作りのため、子供神輿を製作。 
その後21年お祭りの度にお神輿の挙行を行ない現在に至る。近隣3町会を入れた楽しく意外性の有る祭り、来たくなる様な祭り、自主運営スタイルの祭りを企画、新しい形の祭りスタイルを構築する。
また春には桜祭りを企画、平成12年より毎年継続 太鼓、オカリナ、大正琴、コーラス、ピアノ演奏、読む会、バザーの等各団体が自主的に催しを行なえるようコーディネートを行なう。
現在では模擬店の出店等で徐々に評価を頂く。現在地元で祭囃子の演奏が出来るように囃子の稽古10年計画で行ない、現在6年目となる。
本年度平成25年から独自に、「舞鼓会、はやし連」を立ち上げ、地元に有った囃子の演奏を通し、親しまれて日本の芸能を継承できるよう研鑽中

また八王子の地域に貢献すべく「桑都太鼓連絡会」(7団体)を結成して定期的な打合せ、イベント企画 祭り参加を行なっている。
独自に毎年和太鼓フェスティバルを企画。無料の太鼓コンサートを実施している。
また、毎年秋の「八王子いちょう祭り」(常任理事16年)を務め、「来て観て触れる和太鼓お祭り広場」を企画、開催,全チーム参加して祭りに参加。八王子の歴史に残る和太鼓の演目と笛の演奏を和の文化、和芸や和楽器の素晴らしさを広めるための道場、発表の場である芸樂堂や教室などを設立、日本の音楽 日本の芸能、日本の踊り、日本の文化を世界に発表する機会を作るべく奮闘中

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